知られているようで意外と知られていないディスプレイの「高画質」
「高画質」という言葉自体色々な意味がありますが、ディスプレイに限って話せば「高画質」というのは一定の基準が定められています。
今回はあまり知られていないこのディスプレイにおける「高画質」の基準と選び方について最新情報をもとに語っていこうと思います。
高画質の6つの要素+α
ディスプレイにおいて「高画質」を決める要因は様々なものがありますが、最も重要かつ基本的な要素としては以下の6つがあります。
- 解像度
- 色域
- 表示色
- リフレッシュレート
- 輝度
- コントラスト
解像度
解像度とはディスプレイのピクセルの数のことで、多ければ多いほどより細かい表現が可能となります。
最近のモニターは
- フルHD:1920×1080
- WQHD:2560×1440
- 4K:3840×2160
- 5K:5120×2880
が一般的です。
4K、5KはフルHD、WQHDを縦横2倍したものです。最近は4Kや5Kを採用するモニターも増えてきました。
最近の動画は「フルHD」か「4K」で作られることが多いのでこの辺りを基準にすると良いでしょう。テレビは「フルHD」か「4K」のどちらかであることが多いです。
「WQHD」や「5K」はより作業領域を広くしたい人や4K動画をドットバイドットで表示しながら編集したい人など本格的な作業を行う人、クリエイター向けだったりします。
なお、スマホやタブレットではモニターやテレビに比べて画面が小さいので、解像度が大きければ良いというわけではありません。
どちらかと言うと1インチ辺りどれくらいピクセルがあるかを示す「画素密度」の方が重要です。人間がピクセルを認識できる限界が326ppiと言われており、それを超えるとどんなに解像度が高くても違いを実感しにくかったりします。ちなみに最近のスマホは400ppi越えが普通です。
色域
高画質を決める上でもかなり重要な要素だと言えるのが「色域」です。
色域とは人間が目に見える色から定めた色の範囲を示す規格のことです。
具体的には以下の図の通りです。
画像参考:avforums
背景の色付きの部分が人間が目に見える色の範囲です。
- Rec.709(sRGB):現在主流の色規格。大半のWebページ・動画・テレビなどはこれを基準に制作されている
- DCI-P3:プロシネマ向け色規格。プロによる映画作品などはこの規格で制作されていることが多い。最近のiPhoneやiPad、MacBookでも採用されている
- Rec.2020:次世代の色規格。これまでより遥かに広い色を表現できる規格だが、現時点でこの規格に完全対応したモニターは存在せず、コンテンツも存在しないため将来技術が発展したときのための規格
それぞれRec.709 < DCI-P3 < Rec.2020の順に色域が広くなっていますが、色域は広ければ広いほど良いわけでなく、対応しているコンテンツがなければ無意味なので基本はRec.709(sRGB)が100%カバーされていれば十分です。
表示色
表示色とは表現できる色の数です。
色の範囲を示す色域と誤解されやすいですが、色域は色の範囲を示すのに対し、表示色はその色の範囲の中で何段階に分けて色が表現できるかを示すものです。
具体的には以下の図を見るとわかりやすいです。
画像参考:EIZO
見てみますと、より表示色が多い10bitの方が滑らかに色が変わっていることがわかるかと思います(画像の例はかなり極端に加工されているので実際の表示とは異なります)
現在一般的なのが8bitで、プロ向けのモニターなどは10bit対応しています。
- 8bit:約1677万色
- 10bit:約10億7374万色
となっています。
しかし、この規格もコンテンツが対応していなければ意味がなく、たいていのコンテンツは8bitで制作されているので、普通は8bit(1677万色)あれば十分です。
リフレッシュレート
リフレッシュレートとは動画に関わるスペックで、この数値が大きいほど動画が滑らかに動きます。
モニターやディスプレイではHz(ヘルツ)
動画やゲームなどのコンテンツではfps(エフピーエス)
という単位が使われ、どちらも意味は同じでそれぞれ1秒辺り画面(コマ)が何回更新されるかを示します。
通常は60Hzですが、最近では一部ゲーミングモニターやスマホなどで120Hz以上のディスプレイが登場しています。
ただし、動画は60fps、映画・アニメは24fpsが一般的で、120fpsを超えるのはごく一部の動画と一部ゲームくらいです。
たいていは60Hzあれば十分です。
輝度
輝度とはその名の通り画面の光(バックライト)の明るさを示します。
少し前までは輝度が高くてもただまぶしくなるだけで、そこまで重要なスペックではありませんでしたが、最新規格「HDR」が登場したことで一気に重要性が増しました。
「HDR」とはざっくり言うと従来のディスプレイで採用されていた「SDR」よりも暗いところから明るいところまでの表現の幅が広がった規格のことを言います。
具体的には以下の画像が分かりやすいです。
画像参考:technorgb
現実世界では月明かりが約0.001cd/㎡、晴天時の屋外が約10万cd/㎡と言われていますが、SDRではそれよりも遥かに狭い0.1〜100cd/㎡程度の範囲しか表現できませんでした。それがHDRでは表現の幅が広がり、0.01〜1000cd/㎡ほどの範囲の表現ができるようになりました。
SDRでは現実世界をただ色でのみ表現する規格のため、現実の輝度に関してはあまり考慮されていません。そのためどんなに明るいモニタを使用してもSDRではただ全体の色が明るくなるだけでリアルな明るさに近づくわけではありません。
対してHDRでは色に加えて輝度も考慮された規格となっています。これにより現実世界により近い明るさの表現が可能となり、SDRとは比べ物にならないほど映像にリアルさを感じられるようになります。
SDRモニタでは200ニト(cd/㎡)もあれば十分ですが、
HDRモニタは1000ニト(cd/㎡)が理想的です。
ただし、1000ニトを超えるモニタは現時点では高額な業務用モニタしか存在せず、液晶ディスプレイでは1000ニトを超える輝度ではコントラスト比の問題からバックライトが浮いて見える「黒浮き」が発生してしまうため、有機ELやローカルディミング方式の液晶ディスプレイでない限り理想的なHDRモニタの実現は難しいでしょう。
コントラスト比
コントラスト比とは最も明るい白と最も暗い黒の比率のことです。
たいていこのスペックは黒がいかに暗く表現できるかを指しています。
一般的な液晶は1000:1
有機ELは100万:1
となっています。
これは例えば100ニトのモニターがあったとき一番暗い黒の輝度が
液晶なら0.1ニト
有機ELなら0.0001ニト
になります。どちらがより黒に近くなるのかは一目瞭然です。
今ではほとんどのディスプレイで使われている液晶ですが、最大の欠点としてこのコントラスト比の低さがあります。
そのため先ほどの新規格「HDR」が主流の時代になったとき、液晶では「HDR」の映像表現をフルに発揮することができないわけです。
ただ現状ではまだまだHDRは普及していないので、まだ液晶でも十分です。
もう一つの隠れた高画質要素
スペックで確認できる重要な高画質要素は以上の6つですが、もう一つの決してメーカー側が明かさない重要な高画質要素があります。
それが「色精度」です。
色精度とは業界が定めた色をどれだけ正確に再現できるかを示すスペックとなります。
色精度はΔEで表され、
ΔE < 3なら色の違いが肉眼で分かる程度
ΔE < 2なら色の違いがほぼ分からない良好な色精度
ΔE < 1なら完璧に近い色精度
となります。
これは色域や表示色と深い関係性があり
例えばsRGB 100%カバー、表示色 8bit(約1677万色)のディスプレイがあっても色精度ΔE > 3だったりすると高画質とは言えません。
本来であれば色精度 ΔE < 1 が理想です。
色精度が高いディスプレイで、プロが制作した映像作品などを見るとディスプレイが窓のようになり、まるでその場にそのものがあるかのようなリアルな映像となります。これは実際に見てみないと分かりにくいところですが、この違いはかなり大きかったりします。
しかし、たいていのメーカーは色精度をそこまで重視していないのが現状です。
なぜなら最初から高い色精度を実現するとなると一台一台正確に色を調整する必要があり、生産コストが非常に高くなる上にスペックにも表されないため、一般ユーザーはまず気づかないところだからです(大半のモニターがΔE > 3なのが現状です)
スペックにも表されないこのスペックをどう見極めるかと言いますと、自分で専用の測色機を購入して確認するか、誰かが検証した結果を参考にするほかありません。
ただ、ある程度参考になる判断基準として工場での色補正を謳っているメーカーは比較的色精度が高いことが多いです
高画質の基準
高画質に重要な6つの要素+αに基づいてまとめますと、高画質の基準は大きく「SDR」か「HDR」かで分かれます。
SDRの場合(通常はこれを満たせば十分高画質)
- 解像度:フルHDか4K
- 色域:sRGB 99%以上カバー
- 表示色:8bit(約1677万色)
- リフレッシュレート:60Hz
- 輝度:200ニト
- コントラスト比:1000:1
- 色精度:ΔE < 1
ポイントはsRGB 99%以上カバーしている点です。他のスペックは大半のモニターが満たしている要素なので、色域だけは気をつけましょう。ついでに工場での色補正を謳っているメーカーのモニターを選ぶと良いでしょう。
これさえ満たせばたいていの動画・ゲームなどが十分高画質に楽しむことができます
今のところオススメは以下のモニターです。
このモニターは色精度が非常に高いことが検証によって確認されています↓
HDRの場合
- 解像度:4K以上
- 色域:DCI-P3 98%以上カバー
- 表示色:10bit(約10億7374万色)
- リフレッシュレート:60Hz
- 輝度:1000ニト
- コントラスト比:100万:1
- 色精度:ΔE < 1
現時点で最高のHDRモニターを求める場合は少なくとも上記のようなスペックは必要でしょう。ただ、現存するモニターで上記スペックを全て満たすものは非常に少なく、そのほとんどが300万円以上する業務用モニターです。
上記スペックを満たしているもので唯一ギリギリ買える価格帯のモニターは「Apple Pro Display XDR」くらいです。
このモニターはローカルディミング方式のディスプレイで安定して1000ニトの高輝度を実現しつつ、100万:1の高コントラストを両立し、Apple製品ならではの並外れた色精度を実現しているのが特徴です。
ただこの製品はThunderbolt 3対応の一部製品しか接続できない仕様のようで、最新Mac製品を持っている人でない限りオススメはできないでしょう。
上記スペックを全て満たしているわけではないものの、近いものならモニターではなくテレビですが「SONY A8H」があります。
テレビは全体的に色精度が低いものが多いのですが、この製品は色精度がΔE < 1.84と非常に高いことが確認されており、DCI-P3 97%カバー、最大輝度は約650ニト、コントラスト比は100万:1以上の有機ELと十分ハイスペックです。(画質モード:カスタム、色温度:エキスパート1の場合)
ただし、サイズは55インチ〜と非常に大型で、有機ELなので長時間同じ画面を表示すると焼き付きが発生する可能性もあるため、長時間同じ画面を表示することが多いPC作業などの用途にはあまり向いていません。
参考:https://www.rtings.com/tv/reviews/sony/a8h-oled
高画質なディスプレイを選ぶ基準はおおよそ以上の通りです。
この他にも色々と画質に関係する要素はあるのですが、さらに細かく解説したものが見たい場合は以下の記事が参考になります。
記事自体が古いので、HDRについては書かれていませんが、他はおおよそ共通です。
高画質なディスプレイ選びの参考になれば幸いです。
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